荒川 修
「たかが便秘、されど便秘」。タレントの松本明子さんは、妊娠中の便秘でトイレに居た時間が一日の中で一番長かったと書いている。
便秘とは、便の性状を意味する用語である。頻度の少ないことではない。したがって、たとえば、排便が毎日あっても、硬く乾燥した便が排便されれば「便秘」である。逆に、週に一度の排便でも、その便が軟便なら「便秘」ではない。
正常の排便頻度は1日に3回から3日に1回である。
妊娠すると黄体ホルモンが増加する。黄体ホルモンは、消化管の筋(平滑筋)の収縮を抑制する。食道下部の収縮がおさえられ嘔吐しやすくなる(つわり)。嘔吐により十分食事が取れなくなり水分が失われ脱水となりやすい。また大腸固有の運動が抑制されると便からの水分吸収の機会が増え水分吸収能力も増加しているので、さらに便秘となりやすい。また妊娠子宮以下の静脈圧の上昇により、痔・静脈瘤・むくみが起こりやすくなる。妊娠後半は、大きくなる子宮のために胃は圧迫され、食事が十分取れなくなる。大腸も圧迫される。また腹直筋も離解しやすく腹圧が十分にかけられなくて便が溜まりやすくなる。
次に薬剤の影響がある。痙攣性便秘(小石のようでころころウンチ)に対する下剤の使用は腹痛と便秘を悪化させる。弛緩性便秘(太くて大きい大根ウンチ)に対しての下剤の常習性使用(下剤を内服しないと出ない)は、大腸の筋力を低下させ下剤にのみ反応するようになる。妊娠中の貧血に対する鉄剤投与が行われるが、これが便を硬くする原因となる。咳止めのコデインや胃痙攣などに対するブスコパンも腸の動きを抑制して便秘の原因となる。
(2001.07.06)